裁判所のお作法 4 「服装」

東京地裁に行くと中には意外と人が多いのですが、大抵の人はスーツを着ています。一方本人訴訟の人の場合は私服を着ていることが多いように思います。裁判所職員でも髭を生やしていたり、弁護士でも比較的カジュアルな恰好をしている人も見かけました(女性弁護士に多いか)。裁判を傍聴していると弁護士に連れられた証人は、全員スーツを着用していました。服装で心証が変わるのは裁判官としてあっていいのかと思ってしまうかもしれませんが、筆者は裁判所に行くときはスーツをお勧めします。
さすがに傍聴とか記録閲覧の時はカジュアルでもいいと思いますが、担当書記官やまして口頭弁論の時はスーツでしょう。
毎日毎日裁判をやっている裁判官や書記官は

 

「スーツ=弁護士=ちゃんとしている」

「私服=本人訴訟=ちゃんとしていない」


と普段の経験から思っているかもしれません。一番重要なのは訴状や証拠をきちんと示しているかどうかだと思うのですが、こんな変なところで裁判官に悪い心証を与えてしまうのはただの損だと筆者は考えます。

裁判所のお作法 3 「書類」

訴状や甲号証には「正本」「副本」「甲第~号証」と基本的に右上に大きめに表示してあります。
勉強を始めて初期の頃に本によって「ボールペンで書きます。」「大きく赤字で表示します。」と書かれてあり、どちらだかわからなくなった筆者は地元の裁判所に問い合わせてみました。すると職員に「黒でもわかればOKです。」と回答されました。特にこの辺は決まりがあるわけではなく、職員の言った通り「わかればいい」のですが、実はこれには深い訳があったのです。証人尋問などで甲号証を証人に見せる場面が多々あり、この時に赤字で大きめに書いていないと素早く証人に甲号証を示せないのです。なので弁護士系の本では赤字で大きく書きましょうと書いてあったのです。
まだ初期の頃だったのでこの意味がわかった時は傍聴席で尋問を見ながら納得してしまいました。
このように小さいことでも法廷では重要だったりするので、こういった細かい所にも注意をする必要があるでしょう。

裁判所のお作法 2 「印紙」

お勉強方法5でも記述した間違いについて書きたいと思います。本でも法廷の進め方にしても違いがあると書きましたが、筆者が体験したのはこれだけではありませんでした。裁判所に行って一番ヒヤッとしたのが印紙の貼る位置です。
インターネットで印紙の貼る位置を見ると右に張ってあったり左に貼ってあったりしてどちらなのかわからないのです。
既に本の間違いを発見していた筆者は統一されていない業界だなと思っていたので、貼らずに印紙を持って行ったのですが、東京地裁では受付に印紙を貼るためのスポンジ水が用意してあるので、印紙を貼らずに行くのがいいようです。よく調べて見るとここも裁判所によって異なり、訴額の大きい訴訟では別紙に印紙を貼って持って行くそうです。
筆者の裁判は著作権の絡む事件だったので2審は知財高裁となったのですが、普通の高裁は左上で知財高裁は裁判所で用意する別紙に貼るようなのです。同じ東京管轄なのに部署によっても違うのです。おそらく知財高裁は特許を扱うので金額の大きい訴訟が多く、このようになったと思われますが、うっかり間違えて貼り直しにでもなったらと思うとかなりヒヤッとした間違いでした。

裁判所の実態

筆者が訴訟を通じて体験してこととして、書記官や職員の態度が挙げられます。これは人によって全く異なり、筆者が訴訟記録の閲覧でもたついていると「どうしました?」と声掛けしてもらい、親切にも方法を教えてくれるどこぞのコンシェルジュのような裁判所職員がいたり、質問すると「ググれカス」と言わんばかりのぶっきらぼうな態度をとる書記官など千差万別です。これはどうも

 

1 書記官や裁判官は多忙であり、その忙しさのイライラが態度に出てしまう。
2 本人訴訟は嫌がられる。

 

この2つが原因と考えらます。

日弁連のデータでは裁判官1人当たり単独事件を200件、合議事件を80件抱え、毎月45件の新件が来るそうで次から次へと事件を終わらせないと回らないそうです。書記官も同様に動いているので中々の忙しさでしょう。
本によっては書記官を味方につけろだの書記官に質問すれば丁寧に教えてくれるなどと書いてありますが、分からないところは出来るだけ自分で調べて答えを見つけた方が書記官の心証も間違いなく良くなるでしょう。
筆者の体験ではどうも普通の職員は親切な感じなのだが、書記官はイライラしている印象が強いです。
本人訴訟が嫌がられるのはやはり裁判の手続や法律的な知識が不足しているので、裁判が長引く上に面倒だからでしょう。
第1回口頭弁論で裁判官と初顔合わせとなるので、まず訴状や証拠、証拠説明書などの書類を誤字脱字も無く作れば、本人訴訟でも裁判官の心証が裁判前から良くなるかもしれません。

また、裁判所は前にも書いたが基本的に「修羅場」の人が来るところなので注意が必要です。
壁に向かってブツブツ言っている人や裁判所の前で延々デモをやっている人など結構ヤバ目の人を見かけます。
2018年10月9日には東京地裁内で裁判官がトイレで女に殴られる事件も起こっており、こういうことが起こっても仕方がないのかなという印象を持っています。裁判所内では余計なことはせず自分の事に集中した方がいいかもしれません。

 

証拠収集

知識を身に着けても証拠が無ければ裁判に勝てません。図書館でいい本を見つけたので紹介します。

 

立証の実務 群馬弁護士会 ぎょうせい

 

こちらの本は訴訟の類型ごとに証拠収集の方法がまとめられていて目を通したい本です。

 

裁判は第3者である裁判長を納得させることが必要なので、証拠には証明力や改変可能性の除去といった法律的な裏どりが必要になって来ます。

例えばあなたがインターネット上で名誉棄損された場合、そのHPや掲示板を自分のPCに保存し、証拠として裁判に提出したとしましょう。その場合、相手が証拠の信用性を争ってきた場合はあなたが負ける可能性があります。判例として知財高裁平成22年6月29日判決(行ケ10082号)が挙げられます。
要訳するとインターネットの証拠はURL表示していないとダメですよ。という判例です。自分のPCに保存したファイルでは、プリントアウトした際にこのURLが違うものになっているので証拠として認められなくなってしまうのです。

弁護士を付けた場合は証拠は全部弁護士に見てもらってから取捨選択する形になると思うのですが、本人訴訟の場合はこれも自分でやらなければならないのです。あなたが被害者なら頭に血が上って右も左もわからない状態になっても、冷静にどうしたら第3者である裁判官を説得できるか、説得できる証拠にすればどうすればいいのか。
手持ちの証拠や証拠物の提出方法などこちらもお勉強5と同じで法律的な裏どりはしなければならないでしょう。

お勉強方法 5 「洞察力」

さて、要件事実まで学習したあなたはほぼ弁護士と同じ「知識」を手に入れたと言っても過言ではありません。

 

しかし、ひとつ重要なことがあります。それは

 
「洞察力」 です。

 

「はじめに1」で洞察力が必要だと言っておきながら、「はじめに4」でも後回しにした理由を明かします。

とにかく間違いが多いのです。これには筆者もかなり翻弄されました。気付かずに訴状や準備書面で主張してしまったら一体どうなるのか?実例を挙げます。

 

著作権法 高林龍 有斐閣

 

こちらの「まねきTV事件」といういわゆるテレビ放送を録画して販売していたという事件ですが、高裁まではまねきTV側の勝訴で、最高裁で逆転し、放送局が勝訴した事件なのですが、この本には(筆者の持っているのは初版)高裁までしか乗っておらず、まるでまねきTV側が勝利したように見えるのです。発行日から最高裁判決が出版に間に合わなかったと考えられますが、うっかりこのまま覚えたら大変なことになります(まあ録画した番組を販売する人もなかなか居ないと思いますが。)。

 

訴訟は本人で出来る 石原豊昭他 自由国民社

 

こちらの本の訴状の書式に遅延損害金が6%と記載されています。はは~んそうなのかとこのまま訴状に書くとやはり痛い目にあいます。
実際は根拠法によって異なり、5%から14.6%と幅があり、6%は商法が根拠法の場合です。民法の場合は5%が正解になります。

 

民事訴訟マニュアル上下 岡口基一 ぎょうせい

 

こちらには民訴法の流れに沿って解説がされているいい本ですが、なぜが一部請求について記述がありません。
さらに上には請求の減縮した場合は提起手数料は減額にならないと書いてあるが、場合によっては印紙代が還付されることの記述がありません。

 

要件事実マニュアル第2版 上 岡口基一 ぎょうせい

 

こちらの本には一部請求について記載があるのですが、一部請求を請求の原因に書けばよいとする意見を紹介してあり、記載してある判例も調べずに請求の原因のみに記載したらかなり痛い目にあいます。実際は請求の趣旨にて全体像を特定して一部請求だと明示するものと請求の原因で明らかにすればよいという意見まで幅があります。本人訴訟をするあなたは担当裁判官がどちらを支持しているのか分かりようがないので、請求の趣旨に明示的に書く方が正解だということになります。筆者の場合は請求の趣旨にかっこ書きで一部請求が認められました。ここを間違えると残部請求が不可能になり、何のために裁判をしたのかわからなくなってしまいます。

 

以上です。筆者もすべての本を一枚一句記憶してすべての内容をチェックしているわけではありませんが、それでもこれだけ間違いがあるのです。あなたは間違いに気付けたでしょうか?ただ普通に本を読んで覚えるだけではダメなのです。どの本もいい本ですが、勉強方法としては同じ民事訴訟法にしても同じ法律の違う本を読んで裏どりしつつ知識を補完するとか、ネットで裏どりする作業もしなければ完全に理解したとは言えないでしょう。自分に必要な法律の条文を「e-Gov法令検索」などで読んでみることも良い勉強になると筆者は考えます。

 

筆者がこのブログでいちばん言いたいのはこの洞察力です。後述の訴訟のお作法でも洞察力について記述したいと思います。
その他直近では民法改正も控えており、遅延損害金も3%に変更になっています。民法改正のタイミングにより、訴状や訴額計算書の内容も変えなければなりません。

 

以上でお勉強に関する記述は終わりです。

お勉強方法 4

さて「お勉強方法 3」までマスターしたあなたはかなりのものです。ここからは仕上げです。

 

民事訴訟マニュアル上下 岡口基一 ぎょうせい

 

これは実務者向けに現役裁判官の「あの」岡口判事が書いたものです。民事訴訟法に沿って判例や実際の裁判所での扱い方が書いてあり、さらには和解条項や簡裁・少額訴訟・刑事事件の損害賠償命令も入っており、書式も揃っているので必ず手元に置いておきたい本です。伊藤眞の方は理論的なものなので辞書として、こちらの民事訴訟マニュアルは実際の手引きとして使うといいでしょう。

 

要件事実マニュアル上下 岡口基一 ぎょうせい


通常司法試験に合格すると「司法修習」と呼ばれる実務につく前のインターンシップのような教習を受けます。他の本人訴訟でも法律の勉強はしているがここまでやっている人はあまり見かけません。司法修習は事実認定と要件事実という実務のための学習をするのです。事実認定は簡単に言って経験から導かれて認定できる事実を言い、要件事実は各条文や判例から醸造された要点を事件の類型毎にまとめたものです。特に要件事実が分かっていないばかりに、同じような主張を繰り返して裁判を長期化させたり、本人訴訟が嫌がられる原因にもなっていると筆者は考えます。


和解交渉と条項作成の実務 田中豊 学陽書房
 

こちらは和解交渉での条文作成をまとめたものです。民事裁判では3割程度は和解で解決しているので和解に関する知識も身につけましょう。和解条文も知識が無いと書けないものが多く、条文の文言に何を入れるかで結果が変わってくることがあるのでこちらも目を通したい本です。


裁判官!当職そこが知りたかったのです 岡口基一他 学陽書房


こちらは岡口判事の裁判での心証や考え方を書いた本です。どのように法廷を運営しているのかかなり正直に書いてあると思います。

 

別冊ジュリスト 有斐閣

 

法律は条文だけではダメで、その法律の「解釈」が実際の運用方法として用いられています。あなたの訴訟内容に沿ったジュリストを見つけて読んでみる価値はあると思います。ただしちょっと内容が分かりにくいかな~とは思います。判決の後ろに意見が書いてあったりするからです。人によっては事件番号を控えて裁判所のHPの裁判例情報で判決文を見てしまった方が分かりやすいかもしれません。ジュリストに乗っているような事件ならインターネット上の解釈を見るのも手かなと思います。筆者は最初はジュリストや本に載っている裁判例を見てから裁判所の裁判例情報を見て勉強しました。名誉棄損や著作権で調べるとかなりの数にはなりますが、このレベルになってくると相手側弁護士も知らない判例などもあり、かなり優位に立てたかなと思います。基本的に弁護士は多数の事件を抱えており、あなたの事件にすべてを費やせるわけではありません。本人訴訟であなたが相手側弁護士に対してただ一つ優位に立てる点は、あなたがあなたの訴訟だけの専門家となり、「時間」や「やる気」を1つの訴訟に費やすことができることだと思います。